アルコール依存症は、長期の飲酒により脳内の報酬系(欲求が満たされたときや満たされると分かったときに活性化して快感をもたらす神経系)の神経機能に変化が生じ、脳機能の障害を引き起こしてしまう病態です。病名の「依存」という言葉の響きは、患者さんがもともと依存しやすい体質の持ち主なのではないかと連想させますが、脳機能の障害によって自身の意志では飲酒をコントロールすることが難しい状態になるのです。一定程度長期に飲酒を続ければ、どんな人にでも依存の病態ができ上がるということです。症状には、精神依存と身体依存とがあります。

精神依存としては、飲酒したいという強烈な欲求(渇望)がわきおこる、飲酒のコントロールがきかず節酒が出来ない、飲酒やそれからの回復に1日の大部分の時間を消費し飲酒以外の娯楽を無視する、精神的身体的問題が悪化しているにもかかわらず断酒しない、などが挙げられます。

身体依存としては、アルコールが体から切れてくると手指のふるえや発汗などの離脱症状(禁断症状)が出現する、以前と比べて酔うために必要な酒量が増える、などが挙げられます。

アルコール依存症治療の目標は、原則的にはアルコールを一切断つこと(断酒)ですが、実際の患者さんでは、実行するにはかなりハードルは高いでしょう。断酒に導くための「第一歩」として減酒が治療の選択肢になりつつあります。

また、軽症のアルコール依存症患者さんの場合は、減酒が治療の目標となる場合もあります。ただし、減酒治療は誰にでも当てはまる治療法ではありません。社会・家庭生活が維持できている患者さん、重篤なアルコール離脱症状(幻覚、けいれん、振戦せん妄など)のない患者さん、臓器障害(膵炎・肝炎等)が重篤ではない患者さんで、医師と相談しながら治療方針を選択していく必要があります。

当院では、患者さんに合った治療方法を提案しています、現実的に断酒が困難であり、節酒治療が行える患者さんには積極的に、「セリンクロ」を使用を提案しています。セリンクロは、飲酒の1〜2時間前に服用することで、お酒を飲んでも、以前ほどおいしいと感じられなくなり、結果的に飲酒量が減少します。セリンクロを半年間服用すると、大量飲酒の日数が1ヶ月あたり、2~3日減少し、1日の平均的なアルコール量が約10g減少します。また4割の方で、1日のアルコール量を低リスクレベルまで下げることができたと報告されています。

以前は、断酒を決意していない人が医療機関を受診しても、医師から「断酒をする気になったら来てください」と言われることが多かったようです。しかし最近では、断酒を決意するまでには至っていない人が受診した場合、先ずは外来通院だけでも続けて、飲酒に関する話を重ねていくといったパターンが多いようです。先ずは、気軽に専門機関に相談してみることが大切です。